「年末に売掛金が残っているけど、決算で何かできることはある?」——請求書払いの取引が多い個人事業主の方におすすめなのが貸倒引当金です。青色申告で事業所得がある方は、年末の売掛金などの5.5%までを経費にできます。この記事では、使える人・計算のしかた・仕訳・決算書への書き方を、国税庁の資料をもとにまとめます。
貸倒引当金とは
貸倒引当金(かしだおれひきあてきん)は、売掛金や貸付金が将来回収できなくなるかもしれない分を見込んで、あらかじめ経費にしておく仕組みです。
個人事業主の場合、青色申告の方は年末の債権の合計に一定の割合を掛けた金額まで経費にできます。これを一括評価といいます。
実際に回収できなくなったときの「貸倒損失」とは別の仕組みです。貸倒損失はこの記事の後半で紹介します。
使える人:青色申告で事業所得がある人
一括評価の貸倒引当金を使えるのは、青色申告書を提出する人で、事業所得を生ずべき事業を営む人です(所得税法52条2項)。
- 白色申告の方は使えません
- 不動産所得だけの方も使えません(事業所得が対象のため)
- 取引先の倒産手続きなどで回収が見込めない特定の債権を見積もる「個別評価」(同条1項)は別の制度です
繰入限度額の計算:年末の債権 × 5.5%
経費にできる上限(繰入限度額)は、次のとおりです(所得税法施行令145条1項)。
- 12月31日に持っている対象の債権の帳簿価額の合計 × 5.5%
- 金融業が主な事業の方は 3.3%
- 取引先から受け入れたお金があって、実質的に債権とみられない部分は差し引きます
計算例
- 12月31日の売掛金: 850,000円
- 取引先への貸付金(事業上のもの): 100,000円
- 同じ取引先への買掛金: 50,000円(実質的に債権とみられない部分)
- 対象額: 850,000円 + 100,000円 − 50,000円 = 900,000円
- 繰入限度額: 900,000円 × 5.5% = 49,500円
限度額までであれば、繰入額を少なくすることもできます。
対象になる債権・ならない債権
対象になるのは、事業の遂行上生じた売掛金・貸付金などの金銭債権です。
対象になる主なもの
- 売掛金(請求済みで未入金の売上)
- 未収入金(事業の対価の未収分)
- 事業上の貸付金
- 受取手形
対象にならないもの
所得税基本通達52-17では、事業上のものでも次のようなものは対象外とされています。
- 保証金・敷金・預け金など
- 手付金・前渡金など、資産の購入や費用の支払いに充てるために払ったお金
- 前払給料・概算払旅費・前渡交際費など、後で精算する費用の前払いとして一時的に仮払金・立替金にしたお金
- 雇用関係の助成金などの未収金
- 仕入割戻しの未収金
また、同じ相手に売掛金と買掛金がある場合、売掛金のうち買掛金に相当する金額は、実質的に債権とみられないものとして対象額から除きます(同52-18)。家族や知人への個人的な貸付金も、事業上のものではないため対象外です。
仕訳の流れ:1年目と2年目
貸倒引当金は、翌年に必ず戻し入れるのがポイントです。前年に経費にした分は、翌年の収入(総収入金額)に入れます(所得税法52条3項)。毎年「戻し入れて、改めて繰り入れる」ことから洗替(あらいがえ)と呼ばれます。
1年目(12月31日)
- 借方: 貸倒引当金繰入額 49,500円 / 貸方: 貸倒引当金 49,500円
2年目(12月31日)
- 前年分の戻し入れ — 借方: 貸倒引当金 49,500円 / 貸方: 貸倒引当金戻入 49,500円
- その年の分の繰り入れ — 借方: 貸倒引当金繰入額 ○○円 / 貸方: 貸倒引当金 ○○円(その年の年末の債権で計算し直します)
2年目の利益への影響は「戻入(収入)− 繰入(経費)」の差額だけになります。毎年続ける限り効果は続きますが、仕組みとしては課税の繰り延べである点は押さえておきましょう。
決算書への書き方
青色申告決算書(一般用)では、次の2か所に関係します。
- 損益計算書: 前年分の戻入は「繰戻額等」の貸倒引当金、その年の繰入は「繰入額等」の貸倒引当金の欄
- 「貸倒引当金繰入額の計算」欄: 対象になる債権の合計額・繰入限度額・本年分の繰入額などを書きます
所得税法52条4項では、確定申告書に繰入額の明細の記載がある場合に限って経費にできるとされています。この欄の記入を忘れないようにしましょう。
実際に回収できなくなったとき(貸倒損失)
引当金は「見込み」の経費です。実際に回収できなくなったときは、貸倒損失として経費にします。所得税基本通達では、たとえば次のような場合が示されています。
- 債務者の資産状況・支払能力などから、全額が回収できないことが明らかになったとき(担保があれば処分した後。通達51-12)
- 継続して取引していた相手と取引を停止してから1年以上支払いがないときなど(売掛債権から備忘価額を差し引いた残額。通達51-13)
- 更生計画・再生計画の認可などで切り捨てられたとき(通達51-11)
判断に迷う場合は、税務署や税理士に確認してください。
KS経費&売上管理での登録方法
KS経費&売上管理の複式簿記モードでは、メニューの【決算】にある貸倒引当金ガイドで、計算と仕訳の登録をまとめて行えます。
- 計上年を選ぶと、12月31日の売掛金・未収入金・貸付金・受取手形の残高が表示されます
- 事業と関係のない科目はチェックを外し、実質的に債権とみられない部分は「除外する金額」に入れます
- 繰入限度額が表示されるので、本年分の繰入額を決めます
- 前年に繰り入れた方は、前年分の戻入も一緒に登録されます
- 決算書の「貸倒引当金繰入額の計算」欄に、画面に表示された金額を書き写します
前年に繰り入れた方は、今年の期首残高に「貸倒引当金」をマイナスの金額で登録しておくと、戻入の金額が自動で入ります。決算の作業全体は決算準備(家事按分・減価償却・棚卸)もご覧ください。
よくある質問
今年は売掛金がありません。前年の引当金はどうすればいいですか?
前年分の戻し入れだけを行います。繰入額は0円で構いません。戻し入れを忘れると、前年に経費にした分が二重に経費になったままになるので注意しましょう。
白色申告でも使えますか?
一括評価の貸倒引当金は青色申告の方だけが使えます。白色申告の方が使えるのは、倒産手続きなどの事実がある債権についての個別評価です。
毎年やらないといけませんか?
義務ではありませんが、一度始めたら翌年の戻し入れは必ず行います。年によってやったりやらなかったりすると、年ごとの利益の比較がしにくくなります。
消費税には影響しますか?
貸倒引当金の繰入・戻入は、消費税の計算には関係しません(取引の対価ではないため)。
まとめ
- 青色申告で事業所得がある方は、年末の売掛金などの5.5%(金融業は3.3%)までを貸倒引当金として経費にできる
- 保証金・前渡金・後で精算する仮払金などは対象外。同じ相手への買掛金に相当する部分は除く
- 翌年は前年分を戻し入れて(洗替)、改めて繰り入れる
- 決算書の「貸倒引当金繰入額の計算」欄の記入が必要